たかが位どり、されど位どり

水道方式は、数学者の故遠山啓先生とそのお仲間の方々が作り出した算数の教え方です。そこには、算数、数学の広範囲に亘る考え方が網羅されていますが、塾で子ども達と学ぶにあたり使わせていただいているのは、水道方式の考え方のほんの一握りのものです。その中でも、遠山先生がその大切さを説いている、「位取りの原理」や「筆算中心」、そして「タイルを用いる」ことは、ちょうど小学校で算数を学び始める基礎の基礎にあたるところですが、この原理原則をていねいに学ぶことで、たくさんの生徒さん達が「算数って楽しい」と感じてくれているのではないかと思います。

 

  大人は自分がどうやって数を習得していったか、計算が出来るようになったかを忘れてしまいます。小学校1年生の時にはじめてくり上がりの計算を習ってから、自分は頭の中でどうやって計算をしているのだろう。そんなことを考えたことがありますか? 例えば「7+6」。今でこそ直ぐ13と答えが出るかもしれませんが、こんな歴史を踏んで答えを出していたかもしれません。

・7と3で10だから、6を3と3に分解して、7と3で10残った3で「13」

・7から順に8,9,10,11,12,13と6回数えて「13」

 一けた同士の計算は、それぞれの計算のやり方を駆使して何とか答えを出しても、これが二けた、三けたになるにつれ、「位どり」の仕組みをしっかり理解していなければ、「くり上がり」が出てきた時に正しいこたえには辿り着けません。

 

 「位どりなんて」と簡単に思うかもしれませんが、子どもは本当に「えぇ~」という間違えをするのです。10に固めて位が上がるくり上がりは、私たちが使っている数字が10進位取りだと分かっている大人には「そんなの当たり前でしょ」となりますが、子どもは簡単にはいかないことが多いのです。マンツーマンの授業の中で、「じゅういち」を「101」と書いたり、「さんびゃくにじゅういち」を「300201」と平気で書くところを何度も目にしてきました。これは間違えた生徒に算数の力が足りないから起ったことなのでしょうか。そうではなく、数字はそういう仕組みで出来ていることをしっかり教えれば解決できる、と説いたのが水道方式の教え方なのです。

  

では、具体的にどのように教えたらいいのでしょう。それは、1の位、10の位、100の位、と部屋が仕切られた「位取りの下敷き」とその数の大きさがイメージ出来るタイルを使うことで、なぜ「じゅういち」は「11」、「さんびゃくにじゅういち」は「321」とかくのか、そしてそれがどれくらいの量なのかが一目瞭然です。

 

 遠山先生自身、小学1年生の時に「じゅういち」を101と書いたというエピソードがあります。聞こえるままに書いて何が間違いなのか。でもそこに10進位取りという1つの「決まりがある」ということに遠山少年も気がつくつまずきがあったからこそ、そのことの重要性を訴えているのかもしれません。「たかが位どり、されど位どり」なのです。

(広瀬智子)